【塗装道具探求】塗装工・塗装職人の腰袋 Vol.1(帆布製腰袋編)
めくるめく腰袋に広がる世界
塗装工事の道具は時代と共に進化している。
例えば一見変わってないように見えるローラーや刷毛も、10年以上前のものに比べると、仕上がりの違いや耐久性など確実に進化している。
皮スキも形が変わって無いと思いきや、時代とともに材質が鋼(はがね)からメッキ系に変わり、現在のステンレス鋼SUS420J2へと進化した。
皮スキの詳細については塗装道具探求 皮スキメーカー Vol.1、塗装道具探求 皮スキメーカー Vol.2で解説しているので、そちらを参考にして欲しい。
ソンなコンなで、今回は腰袋(こしぶくろ)について、塗装道具探求をしてみたい。
さて、今までメディアとして、腰袋をテーマとした事例があっただろうか?(ペイントビズはメディアじゃないでしょ?とかいう、突っ込みは受け付けません!)
しかも、塗装工事専門の記事としては恐らく、史上初の試みだ。
読者の皆さんもコノ記事が読めることに幸せを感じて欲しいし、ペンキ屋オタクとして、だれも記事化しなかった腰袋というテーマにチャレンジしてみたい。
先ず、腰袋で代表的なものといえば、超ロングセラーのこのタイプ。
Amazon 大塚刷毛製造株式会社(マルテー) 腰袋 底革付特大
この腰袋、塗装業界では「腰袋」と呼ぶが、大工さんの業界では「釘袋(くぎぶくろ)」という。
下の画像が「釘袋」。両者全く同じ形なのに、「腰袋と釘袋」と業界が変われば呼び名も違うことが面白い。
Amazon 藤原産業株式会社(SK11)帆布製 布製釘袋 HN-KF
この旧来からある腰袋は、紐で腰に結ぶタイプで薄型、マチがない。
最近はあまり見かけないが、昭和50年代頃まではノベルティグッズとして、塗料店や金物屋の名前が入り工事業者へ配られていた。
昔かたぎのペンキ屋なら知っていて、もしかしたら今でも倉庫の片隅にあるのではないだろうか?
筆者も職人になりたての頃は、この薄型の腰袋を使っていた。
「釘袋 昭和 レトロ」で検索すると、様々なアンティークな腰袋が見れるので、在りし日の職人達の様子を想像して欲しい。
Amazon 布製 屋号入り 釘袋 腰袋 大工用品 工具袋 昭和 レトロ
この旧来型の腰袋は帆布製で、加重がかかる部分はリベット止めになっている。
布製品にリベット止めを使い始めたのが、リーバイスだ。
しかし、紐では荷重がかかると腰が痛くなりそうだが、実は様々なメリットがある。
最初にあげるのは、薄型だからこそ中に仕事道具を入れると、摩擦で落ちにくくなるのだ。
その逆として入れにくいのも事実だが、慣れてくるとさほど気にならない。
皮スキ・ペーパー・研磨パッド・ラスター刷毛・カッターナイフ等を入れることで、ある程度パンパンになり変な体勢でも道具が落下しない。
2つ目には紐と布のメリットがある。
紐と布だからこそ柔軟性があり、体勢が直立で無く、仰け反った場合でも腰袋が垂直を維持し、中の道具が落ちにくい。
Vol.2で紹介する現代的な腰袋も、この力点の原理を応用し、中の道具が落ちにくい工夫がされている。
ボックスタイプはベルトで固定するため、地面に対して垂直でない姿勢になると、腰袋の角度が体勢に付いてきてしまい、中の道具が落ちやすい。
今まで薄型タイプの腰袋を使ったことがない職人がいたら、是非とも試して欲しい。腰が痛くならない方法として、数箇所だけベルトループを通せばズボンの厚みで痛くなくなる。
この腰袋、スタンダードな物は帆布製だが皮のスエードタイプも存在する。スエードタイプは大工道具や釘など鋭利な道具に対応する腰袋だ。
足元は七枚こはぜの白の地下足袋を履いて、薄型の腰袋の紐を締めれば、昭和の塗装職人の完成。ついでにねじり鉢巻もしてみよう。
では次に進み、マチ付きタイプの腰袋だ。
これが現在最も多く使用されているタイプではないだろうか。
画像引用:大塚刷毛製造株式会社 マルテー ミシン目入腰袋(ベルト付)
この腰袋は大塚刷毛製造のカタログで、腰袋カテゴリーに最初に登場する商品。
だということは、大塚刷毛で一番売れている腰袋だろうか。
上記の写真はバージョンが古く、現在ではハトメがあり、「落下防止コード」が付けられるものに変更されている。
マチ付きの腰袋の利点はなんといっても、容量の多さだ。
特徴としては前面、サイド面が小分けされ、その場所にカッターやハサミ、ボールペン、油性マジックなども収納可能。
また、昨今の塗装工事では様々な工具の種類も多く、養生の種類も豊富になっている。
例えば、マスキングテープやマスカー等も、マチ付きの腰袋なら格納できる。
その他、ワイヤーブラシやディスクグラインダーの替刃やワイヤーカップ、複数のタスペイサー等も収納が可能。
更に小型の釘抜きなども収納でき、薄型では入りきらない工具類を持って歩くには非常に便利だろう。
この「マチ付き腰袋」は、様々なメーカーからもが販売されている。
更に多くが帆布(はんぷ)で縫製され、強度的にも優れた製品となっている。
先ず最初に紹介するのは、新潟県三条市にある株式会社コヅチ。
帆布・皮革・ナイロン素材による電工用・大工用の袋物および、作業用収納ケース、作業ベルト類、作業用手袋等を製造、販売。
帆布製品に関しては自社グループ工場で製造。
株式会社コヅチには子会社に、株式会社五十嵐工布という帆布製品製造会社があり、調査したところ新潟県三条市で唯一の帆布製造メーカーだ。(三条市のデータから検証)
三条市で作られている帆布製の腰袋は、ほとんどがこの「五十嵐工布」が製造している。
例えば、塗装会社にも仕事の種類として得意、不得意があるように、縫製工場にも専門性がある。
特にこの帆布縫製は特殊だ。
筆者は昔に帆布製バッグのハウツーものの取材をして知っていたのだが、帆布は折り重ねると尋常ではないくらい硬くなり、そこにミシン針を通すのだから、スピーディーに縫って行く事が不可能になる。
ミシンの速度を上げると針が折れ、重ねすぎても針が通らない。絶妙な重ねと、ミシンの速度これらが経験になり帆布縫製の専門性が生まれる。
さらに業務で使う工具バッグという、バッグの中でも高い強靭性が求められれば尚更。
そのため、通常の縫製工場ではなく、帆布だけをあつかう専門縫製工場となるのだ。
少し前置きが長くなったが、それではコズチ(五十嵐工布)の腰袋を紹介したい。
商品名に「電工用腰袋」とあるものの、電気工事だけではなく様々な職人が使える腰袋だ。
Amazon コヅチ スタンダードタイプ電工用腰袋 KCN02BOR
Amazon コヅチ スタンダードタイプ電工用腰袋 KCN02BOD
非常にシンプルでスッキリとした印象。更に丈夫な国産厚綿布を使用し、信頼厚い国内自社工場で生産。
カラバリも豊富で選ぶのに迷いそうだ。
次に別タイプをご紹介。
Amazon コヅチ 二段腰袋 国防 前ベルト付 NKC-02-BOD-B
Amazon コヅチ 二段腰袋 黒 前ベルト付 NKC-02-BK-B
このタイプは前面にベルトがあり、プライヤー専用ケースなどが取り付けられる。
また、落下防止コードの取り付けも可能だ。
次に帆布製腰袋では珍しいフラップ付きタイプを紹介。
Amazon コヅチ ワークタイム フタ付電工用腰袋 KC-03BOD 国防色 防水加工布
腰袋の取り出し口全面にフタが付いている製品。これならば中の工具が落ちることが少ないだろう。
Amazon コヅチ ワークタイム VICTORY 帆布腰袋 蓋付 WTV-200
コヅチ製の腰袋で次に紹介するのは、超異色の和柄模様の腰袋。
Amazon コヅチ IKIDUKUSHI 粋づくし腰袋 虎 DKC-T
Amazon コヅチ IKIDUKUSHI 粋づくし腰袋 龍 DKC-R
Amazon コヅチ IKIDUKUSHI 粋な釘袋 虎 DK-T
Amazon コヅチ IKIDUKUSHI 粋な釘袋 龍 DK-R
コヅチ製で最後に紹介するのは、薄型タイプのブラック仕様。なんかこの腰袋、妙にカッコイイと思うのは筆者だけだろうか。
Amazon コヅチ 工具袋 帆布製釘袋 NKK-03BKL 大
次に別メーカーに移りたい。
社名は金井産業株式会社のブランド、マルキン印。
こちらも新潟県三条市に本社があるベンダーで、「職人さんの腰回り道具を中心にオリジナル品を作り続けてる問屋。」とある。
メーカーでもあり、商社としてのポジションもある会社だ。
Amazon マルキン印 内ポケット付 防水帆布腰袋 改良型 白
最近の腰袋の多くが作業ベルトに付ける、サスペンダーに対応するため、背面のベルトループ中心の開きが広めに作られている。
マルキン製の腰袋にもそれが採用され、「改良型」として販売している。
しかし、サスペンダーをしない人や、腰袋を利き手側の後方に装着するのならば、とくに幅広の中空きタイプ製品でなくとも大丈夫だ。
また、この中空きタイプは作業着のベルトループに一度通すことで、腰袋が移動しない利点もある。 色々と考えられて作られているんだな~
Amazon マルキン印 内ポケット付帆布腰袋 YK-13 紫
Amazon マルキン印 内ポケット付帆布腰袋 YK-14 桃
Amazon マルキン印 内ポケット付 防水帆布腰袋 改良型 国防
次に紹介するのもマルキン印。柄物だが、柄が前面にはなく、チラ見せしていておしゃれな一品。
上の腰袋と同じ色だが、ポケットの部分に柄が入るだけで印象が大きく変わる。こちらもカラバリが豊富でどれを選ぶか迷うのではないだろうか。
Amazon マルキン印 内ポケット付帆布腰袋 YK-25 国防 緑和柄
Amazon マルキン印 内ポケット付帆布腰袋 YK-23 紫 紺和柄
Amazon マルキン印 内ポケット付帆布腰袋 YK-20 黒 茶虎柄
Amazon マルキン印 内ポケット付帆布腰袋 YK-10 黒 白蛇柄
Amazon マルキン印 内ポケット付帆布腰袋 YK-21 紺 灰虎柄
Amazon マルキン印 内ポケット付帆布腰袋 YK-22 白 白虎柄
Amazon マルキン印 内ポケット付帆布腰袋 YK-24 桃 赤和柄
Amazon マルキン印 内ポケット付 ナイロン腰袋 B2 桃
次に紹介するメーカーは、プロ用工具を発売する株式会社高儀。
年商366億円(2021年度グループ全体)の中堅工具メーカー。こちらも新潟県三条市に拠点を置く。
高儀には多くのブランドが有る中で、腰袋は「侍BLACK」のブランド名で展開している。
では早速紹介したい。
このラインナップは多色構成で、ベルト通しの部分と底面、前面下部がバックスキンで補強されている。
色違いの部分があることで、オシャレな装いの腰袋だ。
Amazon 帆布腰袋 SRB-32W 侍BLACK! ホワイト
Amazon 帆布腰袋 SRB-32OD 侍BLACK! カーキ
Amazon 帆布腰袋 SRB-32BLK 侍BLACK! ブラック
以上が高儀の腰袋だ。
次に紹介するメーカーは株式会社フジタ。ブランド名は鳶壱(とびいち)。
このメーカーも新潟県三条市にあり、職人の腰まわり用品を販売するベンダーだ。
Amazon 国産帆布製工具腰袋 内ポケット無 ミニ 黒(F-05BK)
今回は帆布製の腰袋を紹介したが、腰袋以外でみつけた面白い商品として「レッグ・バッグ」「レッグ・ポーチ」なるものを発見した。こういうのも悪くないかもしれない。
評価が異常に高く、尚且つコメント(海外)も多く、使い方次第では腰袋を凌駕するかも。
しかし、一歩使い方を間違えると、皮スキが貫通して足に刺さったりして(笑)
使用する場合は、自己責任でお願いしたい。
今回の「【塗装道具探求】塗装工・塗装職人の腰袋の世界Vol.1」では帆布製の腰袋を紹介したが、腰袋の世界はまだまだ広い。
Vol.2では、革製、海外モノ、ハイテク腰袋など更に突っ込んで紹介したい。是非とも楽しみにしてほしい。
©︎PaintBiz By 二見勇治
著者:二見勇治 Futami Yuji
建築塗装アナリスト
企画・取材・撮影・動画清作・ライティング・マーケティング 担当
東京都出身。建築塗装業の長男として生を受け、多くの職人達の中で育つ。塗装職人と造園職人の修行を積んだ後、カメラマンへ転身。出版社カメラマンを経て2001年よりフリーカメラマン。
雑誌・書籍・広告撮影、塗装関連の写真・動画制作、リフォーム会社広告担当を経験。
建築塗装の新たな表現を模索中。