ペイントビズ(PAINTBIZ)

電磁波塗料 何だソレ?思考盗聴も塗料でブロック!?

最先端兵器と塗料

ミリオタ※1の間では、「ステルス戦闘機の塗料に日本の技術が使われている。」という、信じがたい逸話がある。
※1ミリオタ(ミリタリーオタクの略語)

しかも、ある人がその話を言ってしまったから、信憑性が生まれた。
ノーベル物理学受賞の益川敏英氏(京都大学名誉教授)がインタビューで話してしまったからだ。

―平和目的の研究開発が、軍事目的に転用されるときもありますね。
一つの例を挙げよう。1970年代に日本でも高層ビルが建ち始めました。すると電波障害でテレビが良く映らなくなった。いわゆるゴースト現象です。ある塗装会社の技師が、ペイントの中にフェライトいう磁石を混ぜ込めた。すると大変いい電波吸収材になった。そのとき、その人はなにも戦争のために開発したのではないのです。しかし15年後、今度はその塗料が米国で「見えない戦闘機」と呼ばれるステルス戦闘機に利用された。黒い機体に塗ってあるのは、電波吸収材です。そのとき、その技師が当初思ってもいなかった形で、戦争目的で使われたのです。科学者はおおむね、思わぬところで自分の開発したものが軍事目的に使われている立場なのです。
引用:中國新聞(社説・コラム 2011 3月 9条理念今こそ世界へ ノーベル賞受賞・益川敏英さんに聞く)

本当なのか?

では、真偽を確かめるべく、特許検索でリサーチを行おう。
検索方法は特許情報プラットフォームで「塗料 電磁波」(四法全て)と検索。

検索結果を古い順に並べ替えると、次のような特許情報が見つかった。

文献番号:特開昭54-100205
出願番号:特願昭53-006484
出願日:1978/01/24
公知日:1979/08/07
発明の名称:電磁波吸収用塗料組成物
出願人/権利者 関西ペイント株式会社

ん?これは関ペか?
しかも、この頃の電波を遮断する大規模建造物といえば、明石海峡大橋じゃないのか?
その塗料開発チームの一員が、以前インタビューを行った、元関西ペイントの研究者、奴間伸茂(ぬま のぶしげ)氏だ。

奴間(敬称略)
いわゆる、R&Dで研究開発だね。僕は樹脂合成が専門。但し、関西ペイントの研究開発は他の樹脂メーカーとは違って、研究から塗料生産現場の製造までタッチしていた。
ラボ(研究室)で実験を繰り返しプロトタイプを仕上げる。
ジャンルとしては、家庭用塗料から建築・自動車まで、その中でも「重防食塗料用樹脂」の開発も思い出深い。例えば世界最長のつり橋、明石海峡大橋向け高耐候性塗料に使われた。
抜粋:時代を塗り替える人々】奴間伸茂 塗料開発の次へ(前編)《ペイントビズ2021.02.03》

上記はペイントビズ過去記事から抜粋。正にそのものズバリのオーソリティー。奴間(ぬま )氏へは後日、事の確認を行いたい。

では、実際には日本の塗料技術が、ステルス戦闘機の塗料開発に繋がったのだろうか?

ステルス戦闘機を調べてみると、意外にもその開発は古く、1945年第二次世界大戦末期、ドイツ軍が開発していた「ホルテン Ho229」では既に、電波吸収のため炭素粉末入りの塗料が使われたとある。
そしてこの機体は終戦と同時にアメリカ軍が接収。本国へと移送され後に、ホルテンHo229の全翼型戦闘機の発展系として様々なステルス戦闘機が開発された。

つまり、技術開発で30年近く先行しているのに、日本の塗料技術が必要だろうか?

塗料や塗装には様々なロマンが見え隠れする。

また、今回の塗料、電磁波シールド塗料や電磁波吸収塗料は、電波飛び交う現在において、今後はあらゆるシーンで活躍するのは間違いない。
ペイントビズではこういった塗料・塗装の知られざる一端を今後もお届けする。

最後になるが、筆者はいつも原稿制作時は「頭にアルミホイル」を巻き、外部から入ってくる電磁波を遮断し集中力を高めている。

今後は電磁波シールド塗料を活用、更なる執筆活動に励みたい。

©︎PaintBiz By 二見勇治

前のページ電磁波の塗料

二見勇治

著者:二見勇治 Futami Yuji

建築塗装アナリスト
企画・取材・撮影・動画清作・ライティング・マーケティング 担当
東京都出身。建築塗装業の長男として生を受け、多くの職人達の中で育つ。塗装職人と造園職人の修行を積んだ後、カメラマンへ転身。出版社カメラマンを経て2001年よりフリーカメラマン。
雑誌・書籍・広告撮影、塗装関連の写真・動画制作、リフォーム会社広告担当を経験。
建築塗装の新たな表現を模索中。