【時代を塗り替える人々】奴間伸茂 塗料開発の次へ(前編)
新たなステージへの挑戦
PB二見:
因みに、行政書士の資格取得と日本塗料工業会の常務理事とでは、どちらが先しょうか?
奴間:
行政書士の資格は役員時代、確か60歳になるか、ならないかで取得したんだよ。
写真:50代取締役就任(写真提供:奴間伸茂)
PB二見:
スゴイですね!
還暦間際で、全く違う分野へのチャレンジ。しかもビジネスマンをされていた時に勉強して取得したんですか?
奴間:
そう。役員・参与としてで働いていた時だね。
PB二見:
でも、なんで行政書士だったんですか?
奴間:
本当はさ、弁護士がよかったんだけど、ちょっと無謀かなと思って(笑)
会社に居て、責任ある仕事をしながらは難しいよね。行政書士も最近は試験が難しくなっていて、流石に独学では出来ないから、土、日曜には資格受験予備校に通ったんだよ。独学じゃあ厳しいよね(笑)
それくらいやらないと会社員をやりながらは、難しかったと思うよ。
PB二見:
その時、予備校の同じ教室には同年代の方っていらっしゃいましたか?
奴間:
少ないけどいたと思う。そのくらいの人達はさ、本気度が違うからすぐ分るよ(笑)でも、一番多かったのは30代とか40代の人達だったよ。
それと同じ教室には、すごく優秀なんだけど、こんな時代だから会社が倒産したりとかさ、そういう人もいたね。あと、今日本の社会ではいくら優秀でも「途中入社」は難しいんだよ。だから資格なのかもしれない。
行政書士の資格試験は合格率10%程度と、難度が高くなっている。資格を取ったら、成功している先輩方の指導・助言を受けて、仲間と力を合わせてぜひ成功して欲しいよ。
僕も資格を取得したけど、今は塗料・塗装の技術開発が中心。行政書士の方は契約書作成、補助金申請等書類作成の方で役立ってる。
PB二見:
その後、関ぺを退職されてから、日本塗料工業会(以後:日塗工)の常務理事になられたのはいつ頃でしょうか?
あと、日塗工って「何をやっているところ?」と、思う塗装工事関係者もいるので、少しご説明していただけますか。
奴間:
62歳の時だった。
(2011年5月~2015年4月(社)日本塗料工業会常務理事)
日塗工は5つの目的と事業がある。「経営、環境、安全に関わる調査・研究」。「国内外での品質、規格に関する標準化」、「国際間の共通課題に対する情報交換と対策」「業界共通色票である塗料用標準色の作成」。
最後に「製・販・装連携の普及啓発、発展」。
実際に常務理事を務めて実感したけど、いずれの事業も会員各社の絶大なる協力を得て、各委員会を立ち上げ、日々精力的に推進している。「普及啓発」については、塗料の役割、塗料の可能性を皆さんにもっと知っていただきたいと、製・販・装、総力挙げて取り組んでいるんだ。
塗料にはVOC(揮発性有機化合物)排出などネガティブな面もあるけど、鉄をサビから守るなど、限られた地球資源を守り、橋などのインフラやプラント、自動車などの工業製品から家庭製品まで長寿命化するという大きな役割がある。
自動車なんかせいぜい0.1mm程度の薄い膜で守っている。薄いので量が出ないから注目度も低いけど、金属の腐食、木材の腐食、樹脂製品の表面保護をすることで、それらを保護している。
そこにフォーカスして、プラスの面を業界全体でアピールする必要があるんだ!
悪い部分は当然、直さなきゃいけないけど、もっとポジティブに「限られた資源を守る機能としての、塗料と塗装の重要性を分りやすく伝えること」が必要だよね。
「地球環境保全のために水性化できるところは水性塗料を使う。有機溶剤を使わざるをえないところは一定の条件で使う。」とか、「今まで有害物質を使ってきたけど、研究の成果で使わなくてもよくなった。」みたいに、根拠を提示して分りやすく説明すれば、色々な人達がもっと「塗料と塗装」に目を向けてくれるはずだ。
塗料の魅力、塗料技術の面白さを知れば、若い人々が、後世をつなぐ人が塗料・塗装の世界で頑張ろうと思ってくれる。それが結果として「発展」に繋がるんじゃないかな。
PB二見:
船底塗料の有機スズ問題や室内塗料のホルムアルデヒド問題の克服、自動車塗料の水性化への移行などですね。
奴間:
そうです。それと今、「機能性塗料」って注目が集まっているじゃない。
高日射反射塗料(遮熱塗料)なども、消費者がどれを選んだら良いか分りにくかった。各社の製品を同じ土俵で比較できる基準が無かったから比べられなかったんだ。
そこで経産省が日本塗料工業会に「評価方法を作ってくれ」と、いうことで「高日射反射塗料のJIS」※6を様々なメーカーが集まって作った。
基準がないと、どのメーカーも「自分の会社が一番良い」ってなるから(笑)
※6 JIS (日本産業規格、Japanese Industrial Standards。産業標準化法に基づき、主務大臣が制定する日本の国家標準の規格の一つ。)
JIS K 5603「塗膜の熱性能-熱流計測法による日射吸収率の求 め方」
PB二見:
機能性塗料って2000年以降くらいから、注目されていると思うんですが・・・
PB佐々木:
注目はされているんですけど、実は売れていないんですよね。
残念な事に、技術者の皆さんが苦労されて作っていても、売れている塗料は昔からある同じ塗料ばかり。
実は注目はあっても伸びていない。
奴間:
そうなんだよ、なかなか伸びていない。
PB二見:
工事会社の方も「元々塗料を信用していない」という前提が根っこにあるじゃないですか?
新しい塗料で失敗するのが嫌だから、少しづつ様子を見て「市場が伸びてきたら使ってみようか?」という。昔からペンキ屋をやっている人たちは、新しく出たばかりの塗料で散々痛い目にあっていますから(笑)
PB佐々木:
でも、今の塗料は技術的な進歩で「悪い塗料」は殆ど無くなってはいますから、横並びで売り方次第になっている部分もあると思いますよ。
奴間:
機能性塗料は「分る人には、分ってもらえている」けれど、一般のお客様が直感的にその効果を感じとれる仕組みを作って、最前線の販売員、塗料販売会社のスタッフが自信を持って売れるようにすることが必要だね。
例えば、「魚沼産のコシヒカリ」は少し高いけど、食べたら分るじゃない。そういうキッカケづくりが重要かな。
PB二見:
最近だと大手塗料メーカの営業マンは、工事会社の方まで来るんですよ。
本来だったら、販売店の担当者が商品説明に来れば良いんですけど、陣取り合戦みたいな感じで、顧客の囲い込み戦略。それが出来ない、中小企業の塗料メーカーは難しいんですよ。
奴間:
そう、中小企業でも良い技術を持っているところは沢山あるけれど、販路が無いし営業が難しい。
それならば、大きなメーカーに売ってもらって販路を広げることも一つの方法だと思うよね。そういったことも模索しているんだ。
僕の仕事と言うのは「繋がりを創っていく」こと。
そしてどんな小さな会社だとしても、「光る技術」がある。それを伸ばし磨いて完成度を高めれば、「大手とも戦えますよ」というアドバイスをしている。
僕のモットーの一つは、「会社に大小はあっても、技術者に大小はない。技術に大小はない!」。
PB二見:
では、奴間(ぬま)さん自身で起こした「塗料塗装技術研究所」の仕事が今の本業でしょうか?
著者:二見勇治 Futami Yuji
建築塗装アナリスト
企画・取材・撮影・動画清作・ライティング・マーケティング 担当
東京都出身。建築塗装業の長男として生を受け、多くの職人達の中で育つ。塗装職人と造園職人の修行を積んだ後、カメラマンへ転身。出版社カメラマンを経て2001年よりフリーカメラマン。
雑誌・書籍・広告撮影、塗装関連の写真・動画制作、リフォーム会社広告担当を経験。
建築塗装の新たな表現を模索中。