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【時代を塗り替える人々】奴間伸茂 塗料開発の次へ(前編)

大手とも闘える方法を伝える

PB二見:
では、奴間(ぬま)さん自身で起こした「塗料塗装技術研究所」の仕事が今の本業でしょうか?

奴間:
そう。塗料開発や塗装関連の企業でのアドバイザーをやっています。
中小・中堅の塗料メーカー、工業塗装会社に対する技術アドバイスが中心です。一部上場超大手にもアドバイスしているよ。

特に中小企業は、良い技術は持っていても、守りが苦手なんだよね。素晴らしい新規技術なのに、特許を取っていないところが多い。
仮に弁理士に相談したとしても、十分に自社の技術を説明しきれない。
そこで僕の出番だ。

僕の仕事は、弁理士側が知りたい部分と企業技術の強みとを「繋げる」、塗料に特化した「通訳」のような感じかな。
それと弁理士さんを選ぶことも非常に重要です。それいかんで過去に大損したケースも見てきた。
特許の書き方は技術論文じゃないんだ。いかに適切に新規性と進歩性を訴え、自社の技術を守るかだよ。


写真:イメージ(特許)

PB二見:
そうですね。知的財産財って知っている人しか分らないですから。知財って本来は義務教育で教えるべきじゃないかって思うんです。私も過去に著作権の係争を経験したことがあるので知っているんですけど、そういう機会がないと知財を勉強する事も無いですよね。知識が無いと守ることも出来ないんで、勿体無いと思うんです。

奴間:
本当、勿体無いんだよ!
あるメーカーの事なんだけど、そのメーカーは塗料の「ある分野」では国内シェア1位。ところがその会社には、特許を出す企業文化が無かったんだ。
相談にいってビックリしたよ。「こんなに良い製品、他社は出してないですよね?」って。
それで、僕が一番信頼している「塗料が得意な弁理士さん」に引き合わせたんだ。

その弁理士さんが事前調査したところ、「この製品は、新規性、進歩性※7があります」って説明してくれました。ようやく彼等は本気で特許を取ろうという気になりました。
独自性があって素晴らしい製品を出している会社であっても、特許を取っていないんだから、勿体無い。

大手塗料メーカーは、2桁の人材を知財部門にかけているから、特許を有効活用しているけど、中小企業の場合は素晴らしい技術があっても、特許で十分に守りきれていない。
下町ロケットじゃないけど、中小企業こそ特許を武器に闘うべきだ。

塗料の良いところってさ、自動車とかプラントとかと違って「小さな実験室」でも、結構良い開発とか発明が出来るところなんだ。
まさに、「会社には大小はあっても、技術者に大小はない!」だね。
※7 特許が認められるための要件「発明であること」「産業上の利用可能性があること」「新規性を有すること」「進歩性を有すること」「先願であること」「公序良俗を害する発明でないこと」


写真:イメージ

塗料メーカーって小さな会社でも、企業としての寿命が長いし、オリジナルの技術がある。創業100年以上、数十年以上という会社が多い。
あと塗料メーカーには色んなお客さんが居る。世界のトヨタから、小さな工房まで。だから成り立っているんだよね。
僕が今やっているのは、中小企業の塗料メーカーの独自性を生かし技術を育て守ること、そして世界に繋げることの指南。
大手塗料メーカーの研究部門は大人数だとしても、専門的な塗料の研究となると、担当者は2~3人だけで研究をしている。

それならば、ジャンルを絞れば中小企業だって大手メーカーと闘えるんだよ

PB二見:
塗料開発とは研究者にとっては規模に関係なく、平等なステージなのに、特許や知財の部分が弱いだけで、自分たちの技術を守る事が出来ないというところが問題なんですね。

奴間:
そう、中小でも攻めと守りが出来れば、戦えるのが塗料の面白さだよね。
でも、塗料って半製品だから、製造、販売、塗装の3つが機能して、やっと塗膜が出来上がって製品になる。

そういった仕組みで成り立っているから、よく塗料・塗装業界って「製・販・装」っていわれるけど販売側の方が、情報を多く持っている場合もあるんだよ。

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二見勇治

著者:二見勇治 Futami Yuji

建築塗装アナリスト
企画・取材・撮影・動画清作・ライティング・マーケティング 担当
東京都出身。建築塗装業の長男として生を受け、多くの職人達の中で育つ。塗装職人と造園職人の修行を積んだ後、カメラマンへ転身。出版社カメラマンを経て2001年よりフリーカメラマン。
雑誌・書籍・広告撮影、塗装関連の写真・動画制作、リフォーム会社広告担当を経験。
建築塗装の新たな表現を模索中。