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【速報】前田工繊がセブンケミカルの株式取得(子会社化)

セブンケミカルが大手企業の傘下に

2021年9月16日、外壁防水材のパイオニア、株式会社セブンケミカル前田工繊株式会社(東証一部上場)のM&Aにより同社子会社へ。

以下、前田工繊株式会社のプレスリリースを掲載。


報道関係者各位
前田工繊株式会社

株式会社セブンケミカルの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ
当社は、 2021年9月16日付で株式会社セブンケミカルの株式を取得し、 子会社化することといたしましたので、 以下のとおりお知らせいたします。
1.株式の取得の理由
株式会社セブンケミカルは、 1971年7月に設立され、 外壁用の防水材、 保護・仕上げ材の製造・販売を行ってまいりました。 同社は、 外壁防水材のパイオニアとして、 防水性・耐久性・施工性など、 高い機能を備えた防水材を他社に先駆けて開発し、 特に透明塗膜の防水材「セブンS/SS」シリーズは、 同社の主力製品として25年以上の販売実績を残してきました。 また、 防水機能以外にも、 防汚、 防滑、 遮熱等の、 工事用途に応じた幅広い機能を持つ製品を取り揃えております。     

当社グループのインフラ事業分野における構造物の補修・補強技術との相乗効果を発揮し、 取扱製品の多様化を図るとともに、 今後は建物の老朽化対策としてリフォーム工事の需要が緩やかに拡大していくことが見込まれることから、 今般、 同社の株式100%を取得し子会社化することといたしました。

これにより、 当社グループの事業領域の拡大とともに、 連結収益基盤のさらなる強化が期待できます。
 2.異動する子会社(株式会社セブンケミカル)の概要

(1) 名称株式会社セブンケミカル
(2) 所在地東京都新宿区西新宿七丁目8番13号
(3) 代表者の役職・氏名代表取締役社長 三浦 健悦
(4) 事業内容外壁用の防水材、 保護・仕上げ材の製造・販売
(5) 資本金50,000千円
(6) 設立年月日1971年7月9日
(7) 上場会社と当該会社との間の関係資本関係:該当事項はありません。
人的関係:該当事項はありません。
取引関係:該当事項はありません。

 

3.取得株式数、 取得価額及び取得前後の所有株式の状況

(1) 異動前の所有株式数0株
(議決権の数:-個)
(所有割合 :-%)
(2) 取得株式数100,000株
(議決権の数:100,000個)
(自己株式を除く発行済株式数に対する割合:100%)
(3) 取得価額取得価額につきましては、 開示を控えさせていただきますが、 公認会計士等の意見を参考として、 双方協議の上で決定しております。
(4) 異動後の所有株式数100,000株
(議決権の数:100,000個)
(自己株式を除く発行済株式数に対する割合:100%)

 
4.日程

(1) 株式譲渡契約締結日2021年9月1日
(2) 株式譲渡日2021年9月16日

 
5.今後の見通し
今回の株式取得(子会社化)が今期の業績に与える影響はなく、 次期の業績に与える影響は軽微となる見通しであります。 今後、 開示の必要が生じた場合には速やかに開示いたします。

以上

以下、リリース情報の捕捉を行う。

リリース情報の捕捉

上記の内容を受け、前田工繊株式会社(以後:前田工繊)へ電話取材を行った。

取材に対応して頂いたのは、前田工繊業務企画部・企画総務グループの三国氏(以後:前田工繊三国 敬称略)。株式会社セブンケミカル(以後:セブンケミカル)株式取得、子会社化の概要を伺った。

PBフタミ
記者発表のプレスリリースを拝見し、セブンケミカル買収の概要をお聞かせください。
貴社の子会社化でセブンケミカルの体制に変化はあるのでしょうか?

前田工繊三国
社員も生産工場・商品も旧来通りの体制を継続します。
但し、役員につきましてはは多少の変更がある方向です。

PBフタミ
セブンケミカルが御社の傘下になったことで、両社ともに商品展開など将来的な変化は起こるのでしょうか?

前田工繊三国
弊社は道路や構造物、インフラの整備・維持に携わる会社として、土木資材の製造・販売を行っております。
その中でコンクリート構造物の補修補強材の製造も行っており、セブンケミカルの技術と弊社の技術とが合わさることで、新たなシナジーが生まれると考えています。

PBフタミ
前田工繊のサイトでは今回の買収内容について公表されていますが、セブンケミカルのサイトでは現在変更がありません。
今後セブンケミカルでも公表が行われるのでしょうか?

前田工繊三国
セブンケミカル側のサイトでは未だ公表を行っておりませんが、変更が固まり次第公表の予定です。

PBフタミ
ありがとうございました。
今後の両社の発展に期待します。

前田工繊三国
前田工繊、セブンケミカル両社の技術によって、インフラ事業と構造物や建築の改修を、更に価値のある事業へ発展できると考えております。
ありがとうございました。


続いて、塗装工事業者にとっては、前田工繊がどういった会社なのか馴染みが無いため、補足を行う。

前田工繊株式会社の紹介

前田工繊株式会社
設立   : 1972(昭和47)年11月25日
福井本社: 福井県坂井市春江町沖布目38-3
東京本社: 東京都港区芝公園2-4-1 芝パークビルA館12F
資本金 : 3,472百万円(2020年9月20日現在)
従業員 : 1,179名(2020年9月20日現在)(連結)
取引所 : 東京証券取引所市場第一部

基幹事業

盛土・地盤補強
斜面対策
排水・吸出し防止・遮水
河川・海洋(港湾)
緑化・防草
公園・エクステリア
コンクリート構造物補修・補強
アスファルト改質材
不織布

子会社

未来のアグリ株式会社
獣害対策製品、電気柵、牧場施設等の製造・販売/園芸用ハウス、農業資材及び栽培システムの設計・施工・販売

エスケー電気工業株式会社
電気牧柵の製造・販売、酪農用製品の販売

未来テクノ株式会社
防災・レジャー用テント、衝撃緩衝マット、オイルフェンス等の製造及び販売

沖縄コーセン株式会社
土木資材の製造・販売・レンタル

株式会社釧路ハイミール
フィッシュミール及び魚油の製造・販売

未来コーセン株式会社
高性能ワイピングクロス等の製造・販売・受託加工、撚糸製造業

BBSジャパン株式会社
自動車用軽合金鍛造ホイールの製造・販売

MDKメディカル株式会社
医療機器の開発・製造・販売

繊維加工業から、土木資材のデパートへ

引用:
経済産業省 関東経済産業局
「18年で70億円の売上を380億円まで拡大したM&A戦略」(前田工繊株式会社)

織物の産地として栄えていた福井県にて、創業時は繊維加工を生業にしていた。高度経済成長期には、新しい道路、鉄道など多くの構造物が全国的に作られる中で、1972年、繊維の技術を活かしたジオシンセティクス技術(土木分野向け繊維技術)で土木事業に参入。
その後、土木事業で売上を拡大し、前田氏が入社した2002年には70億円の売上のうち9割が公共事業、とりわけ道路事業が大半を占めていた。

同じ頃、当時の政権による公共事業の大幅な削減が始まっていたが、社内の危機感は薄かった。
そのような中、前田氏は率先して新しい事業を模索し始めた。M&Aに積極的になったきっかけは、兵庫県の太田工業株式会社から「事業承継が難しい」と相談を受けて子会社化したことだ。
福井県から離れた土地の企業ではあったが、同社の港湾・河川汚濁拡散防止用フェンス(写真1)が、自社の販路でよく売れたのだ。

以降、2012年までに滋賀県の不織布製造企業(日本不織布株式会社)、北海道の緑化・植生製品を扱う企業(株式会社サングリーン)、福岡県のセメント・モルタルを扱う企業(マグネ株式会社)、など10社弱のM&Aを行い、「土木資材のデパート」と呼ばれるようになった。
その中には、大企業である日本ゼオングループのゼオン環境資材株式会社のプラ擬木(写真2)の事業譲渡も含まれていた。
「対大企業では高学歴人材も確保でき、M&Aの新たな可能性を感じました」と前田氏。M&Aの成功に伴い、2007年には東証二部へ上場し、2012年に東証一部指定替えとなったころには売上は200億円規模へと成長していた。

写真1:OKオイルフェンスの施工例 引用:経済産業省 関東経済産業局「18年で70億円の売上を380億円まで拡大したM&A戦略」(前田工繊株式会社)

写真2:プラ擬木を用いた転落防止柵

M&Aによる価値創造で雇用を生み出す

2013年には、さらなる転機となるM&Aを行った。

それは、自動車レースのF1にも用いられてきたホイールブランド「BBS」を擁する企業(現:BBSジャパン株式会社)を経営破綻にともない子会社化したことだ。
「狙いは、自動車業界のTier1(1次サプライヤー)になること。
M&A前に工場などを見学したら、改善の余地が多々あり再生させられると思った」と言う。

結果として、知名度の高い「BBSブランド(写真3)」を手に入れ、さらに自動車大手との強いパイプも獲得した。
これを期に分野外の飛び地のM&Aはさらに加速した。

2015年には、岩手県で防衛製品を手掛ける企業(株式会社オガワテクノ)を再生案件として子会社化(現:未来テクノ株式会社)。
さらに、2016年には福島県の園芸用ハウス、農業資材を手掛ける企業(株式会社グリーンシステム、現:未来のアグリ株式会社)、2018年には北海道でフィッシュミール及び魚油の製造・販売を手掛ける企業(株式会社釧路ハイミール)など、農林水産業への多角化を実現してきた。

前田工繊はこれら多くの経験の中で独自のM&Aのポリシーを確立してきた。

その中心となるのが、M&Aの対象先は「モノづくりを行っている地方の企業」に限るということだ。
地方の製造業の課題として、資金が乏しく技術力を高められない、売り先を拡げるノウハウや人的余裕がない、特定の製品に依存し受注に波がある、経営を安定させるための生産の平準化が難しいなどがある。
一方、M&Aした後に「顧客」を混ぜれば売上増につながる。
他にも、不足している「技術」や、需要に波がある「人材」、そして生産の平準化のために「製造工程」を混ぜれば、M&Aは自社の大きな成長につながるのだ。

株式上場後2008年の株価は最安値で76円だったが、2019年には最高値で2,911円と実に40倍となった(株式分割を考慮)。

また驚くべきことに、これだけのM&Aを行いながらも、原則として雇用を維持しながら事業を進めてきた。
現在では、M&Aした会社が増収増益となり、地方での雇用は大幅に拡大し、380億円の売上のうち200億円以上をM&Aした事業が占めている。

このような経営実績を評価され、2016年には「ポーター賞」、2018年には「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員会特別賞を受賞した。

写真3:プレミアムホイールブランド「BBS」 引用:経済産業省 関東経済産業局「18年で70億円の売上を380億円まで拡大したM&A戦略」(前田工繊株式会社)

引用:経済産業省 関東経済産業局
「18年で70億円の売上を380億円まで拡大したM&A戦略」(前田工繊株式会社)


以上が、前田工繊の紹介だ。

ここ最近、塗料・塗装業界へ大手企業の積極的な参入が相次いでいる。
2021年8月には帝人フロンティアが自社商品の遮熱塗料を発売し、今回の前田工繊のセブンケミカル買収もある種、他業種による塗装・塗料業界への参加ではないだろうか?

しかし、セブンケミカルの商品、セブンS/SSシリーズには愛用者が多い。
塗装工事業者としては、買収によるブランド消滅や商品廃番が気になるところだ。
また、大手企業の子会社化による恩恵も、商品開発などで少なからず発生するだろう。

そういった意味も含め、今後の前田工繊とセブンケミカルの動向に注目したい。

©︎PaintBiz By 二見勇治

二見勇治

著者:二見勇治 Futami Yuji

建築塗装アナリスト
企画・取材・撮影・動画清作・ライティング・マーケティング 担当
東京都出身。建築塗装業の長男として生を受け、多くの職人達の中で育つ。塗装職人と造園職人の修行を積んだ後、カメラマンへ転身。出版社カメラマンを経て2001年よりフリーカメラマン。
雑誌・書籍・広告撮影、塗装関連の写真・動画制作、リフォーム会社広告担当を経験。
建築塗装の新たな表現を模索中。