塗料の動画でアノ企業の裏側を知る。
次に紹介する動画は、塗料関連。
日本ペイントのインドネシアが発信しているYouTube動画だ。
塗料関連でYouTube最多の視聴回数を誇る。
実はこの動画には見えない側面が隠されている。
動画の内容では無く、日本ペイントの知られざるマーケティングの裏側を知れるコンテンツだ。
タイトル:「Nippon Spot-less Plus – Original Version」
日本語訳:ニッポン・スポット-レス・プラス オリジナルバージョン
再生回数:約3千180万回(2020年10月時点)
公開:2018年3月27日
タイトルにオリジナルバージョンとあることから、現地インドネシアで広告を別バージョンで展開していたことが分かる。
先ずは動画を見てみよう。その後にニッペのインドネシアマーケティングを少しだけ紹介したい。
動画自体はなんて事の無い普通のCMで、インドネシアではDIYでの塗装が多く一般人へ向けたオンライン広告としての動画だ。
しかし感のいい人か、ニッペの塗料に精通している人は気が付いているだろう。
先ず日本ペイントが国内で販売している耐菌・耐ウイルス塗料には、銀イオン含有の塗料は無い。
2020年で一番タイムリーな機能性塗料だから分かるはずだ。
国内の耐菌・耐ウイルス塗料の多くは、酸化チタンと紫外線の化学反応で起きる、光触媒(本多・藤嶋効果)による塗料として販売している。
(光触媒については「光触媒のマーケティング、その光りが消えた理由」として今後取り上げる。)
しかし、インドネシアでは特許の関係なのか、それとも紫外線が強すぎる赤道間近のインドネシア、ジャワ島(ジャカルタのある本島)をターゲティングしているためなのかは分からないが、この塗料は光触媒系をうたっていない。
予断になるが、銀イオンの効果による殺菌は巷でも様々な関連商品が販売されているものの、その原理は現代でもまだ解明されていない。
「いまどきそんなことがあるのか?」と、思うかもしれないが、銀イオンに関しては諸々の説があるものの解明に至っていないのが事実だ。
だからといって殺菌や耐ウイルス効果が無いという訳ではなく、効能に関しては立証されている。
話しがそれたが、動画について更に解説する。
それにしても、この動画の再生回数は多すぎる。
いくらニッペがインドネシアでのトップブランドだとしても、3千180万回は流石にヤバイ。
インドネシア人の約11%がYouTubeで見た換算だ。
インドネシアは全人口約2.64億人のうち、インターネット人口は約1.75億人(2020年2月発表)とされ、YouTubeは日本よりも普及率が高く、国民全体が様々なSNSを使い倒している。
その要因として、インドネシアの人口ピラミッドはきれいな三角形になっており、若年層が多く高齢者が少ない人口分布だからだ。
日本よりも老人が早く死に、子供がたくさん生まれる。
それに比べ、われ等日本の人口ピラミッドは、きれいな「逆」三角形を描き、若年層が少なく、ネットを使わない高齢者により経済を圧迫されている。
動画の話しに戻るがこの動画は、コロナ禍のジャストタイミング4月末から5月末にかけて、YouTube上で広告を打ったと予測している。
数にして3000万回が広告を行った数字ではないだろうか。
その証拠に、公開が2018年3月27日にもかかわらず、動画のコメントは2020年の4月から5月の投稿しかない。
更にコメント投稿者も「この広告は・・・」と言葉を残している。(500件以上のコメントを精査)
YouTubeへの広告出稿の費用は3~20円といわれ(広告費はケースバイケース)、もしも最低の3円ならば3000万回をかけると約1億円。20円なら60億円の広告費だ。
そして同時期に日本ペイントHDの株価が急上昇した。
4月末の1株6000円付近から、5月末までの1ヶ月間で8000円台に入り、コロナ大恐慌の最中1ヶ月間で一気に1.3倍へ時価総額(株価)が膨らんだ。
このことが要因で株価の各付け機関も太鼓判を押し、以前の記事で紹介した、「ニッペ1人勝ち」へ繋がっていると、推察。
更にその後の資金調達、ウットナムとの合流(買収でも合弁でもないため合流と記載。)とで、畳み掛けるように会社を急成長させた。
ニッペの時価総額は2020年8月24日時点で約34兆円と試算されているため、それを基に算出をすると、4月から5月の1ヶ月間で約23兆円から約30兆円に自己資産が膨らんだ計算だ。
60億円の広告費で、7兆円を生み出したのか?(もしかすると1億円の広告費)
ヤフーファイナンスの掲示板では「ニッペ錬金術」と揶揄され、投資家達は喚起の雄たけびを上げている。
銀イオンで錬金術とは、なんともロマンがある。
実はこの動画に辿り着いたのも、YouTubeの塗料関係の視聴回数を調べていたからこそだ。
偶然にもこのタイミングで、ニッペのマーケティングに気が付いた。
しかも、こういったマーケティングの基盤を作り出したのが、例のウットナムの「ゴー・ハップジン氏」ではないだろうか。
(別記事で日本ペイントとウットナムについての記事化を予定。)
実はインドネシアのニッペは、マーケティングにおいて日本国内とは全く違う戦略を行っており、筆者は以前からその動向を注目していた。
塗料販売店毎の小売調色システムやアプリやサイトなどだ。
もう日本は追いつけないんじゃないか?と、思うくらいニッペのインドネシア塗装戦略は革新的で、進みに進みまくっている。
今回の記事はその一例として、覚えていただきたい。
因みに筆者は90年代に波乗り目的でインドネシアに毎年2ヶ月滞在していた。(塗装閑散期の梅雨時期。滞在費は宿と食費レンタルバイク、ボート代合計で1日1000円程。)
現地で親しくなった同世代のスタイリッシュなインドネシア人から、ある時昔の写真を見せてもらった。オーストラリア発行のサーフィンガイドブックに70年代の彼の子供時代の写真が掲載されていた。
一緒に見ていた日本人の友人が、誌面をみて、「お前土人だったんじゃん!」と言った。(差別的な意味で言ったのではない)
そう、これがたった20年そこらで日本とインドネシアは逆転してしまった。
話を戻すが、たとえ塗料関連のYouTube広告だとしても、われ等の日本ペイントが表示回数で、世界の塗料YouTubeトップに輝いたことが誇らしい。
そして発展途上国で稼いだ売上をその基盤を作った国内へ還元しマーケティングを今一度考え直すのは如何だろうか?
「先進国」であったはずの日本ペイントの拠点、日本で襟を正せば更に国内の評価も上がるはず。
我々はニッチな業界だが世界に負けていない。
それは日夜、塗装に情熱を傾けた先人達の精神や仕事が昇華し、そして世界で闘う日本ペイントへと花開いたように思える。
その土壌を作った血を引き継ぐ我々だからこそ、更に日本での建築塗装に尽くす必然がある。
そんなペンキ屋達とメーカー達をペイントビズは応援したい。
©︎PaintBiz By 二見勇治
著者:二見勇治 Futami Yuji
建築塗装アナリスト
企画・取材・撮影・動画清作・ライティング・マーケティング 担当
東京都出身。建築塗装業の長男として生を受け、多くの職人達の中で育つ。塗装職人と造園職人の修行を積んだ後、カメラマンへ転身。出版社カメラマンを経て2001年よりフリーカメラマン。
雑誌・書籍・広告撮影、塗装関連の写真・動画制作、リフォーム会社広告担当を経験。
建築塗装の新たな表現を模索中。