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塗装業界DX!!正義か?悪か?

簡単に情報流出

先ずは塗装業界のDXを考える意味で、何に注意をするのか解説したい。

「新しい塗装の道具」が発売されたとしても、ほとんどの場合は仕上がりの美しさや使いやすさ、作業効率を上げるコンセプトで道具は作られる。

しかし、同じ道具であってもデジタルツールの場合は注意が必要だ。

営業の進捗は確認したいし、現場との密な情報も欲しい。そのツールがあるのなら使いたい。

では、どういった部分に用心する必要があるのだろうか?
それは守るモノを考えれば、必然と導き出される。

塗装会社や塗料販売店にとって何が一番大切か。売り上げは勿論だが、その基となる「情報」が超極秘事項だ。

塗装会社ならば、顧客情報、住所、氏名、連絡先、施工年月日、施工内容、また顧客の家族構成などの顧客データにあたる。
実はこれらのデータは販売されている場合がある。

地域的な過去の顧客データが入手できれば、塗り替え時期を割り出し、10年後のピンポイントを狙って電話なり、訪問営業が可能になる。

あまり詳しくは言えないが、どこかしらのデータが流出し、あるところで売られている。
(筆者は過去にそういったデータを見たことがある。)

自社の顧客データが流出すれば、再塗装の客を別の会社に奪われる可能性が生まれる。

次に塗料販売店のケースではどうだろう。
どこから幾らで買って、誰に幾らで売る。そういった情報はトップシークレットだ。
更に顧客ごとに価格設定が違う場合もあるし、得意先の様々な情報は絶対に他社には教えられない。

そして、メーカーが一部の商品(部門)は赤字でも、それを補うために別の商品に上乗せしているなんかは絶対にいえない。

この情報があるからこそ、顧客毎の単価(粗利)設定が可能になり、売り上げに直結する。
もしも、こういったデータが流出し、同業他社へデータが渡れば、自社の顧客へ直接アプローチされ、根こそぎ客を持っていかれる危険性が生まれる

しかし、DXを求めツールを導入すると、会社の極秘データ全てがそのシステムに入ってしまう。

ここからが重要になる。

昨今、新しいデジタルツールが続々と生まれているものの、クラウド化されている。
つまり、全く関係のない他社のサーバーに「自社の極秘情報」が格納される算段だ。

そしてそのデータを持っている会社は超簡単な作業でCSV化ができ、エクセルやスプレッドシートで開けば「貴社の顧客リスト」は一瞬で出来上がる。

安易なツールの導入で、トップシークレットが簡単に破られてしまう。

とはいっても、業務効率を上げたい。では、新しいツールを導入するためにどうすれば良いのだろうか。

その方法を以下に箇条書きする。

1、可能であればエンジニアを雇い自社で開発する。

2、信頼とセキュリティーが強いCRM(顧客関係管理)ツールを活用する。

3、コンプライアンス意識の高い企業(変な国にサーバーがない)が運営するシステムを採用する。

4、同業他社や異業種の知人や知り合いに質問したり、リサーチを行いシステム導入を検討する。

5、ニッチな専門システムの場合は、ツールを提供している会社を入念に調べ、裏側でどの会社と繋がっているかを調査をする。

以上が注意点だ。あまり多く言うと御幣が生まれる可能性があるのでこの程度にしよう。

しかし、DXが必要かどうかは事業規模によるところも大きく、小規模ならばGoogleのスプレッドシートをカスタムして、ユーザーを限定すればセキュアなCRMツールも出来上がる。工事進捗や日報もGoogleフォームで出来上がり、リスト化も簡単だ。

また、今までFAXしか使わなくても事業が出来るのならば、無理してDXを目指さなくても良いのではないか?
そもそも効率化をすれば、その分人を減らすのだから、マンパワーで対応できている売り上げならば、システム化しなくても良いかもしれない。

人間は便利になりすぎると、何も出来なくなる。
昨今「不便益」という考え方が提唱され、人間の本来持っている記憶力や創造性の元として、便利と対極したデメリットによる利点へ注目が集まっている。

「不便益」の代表として例えば、ナビを使わなかった時代は道を憶えたのに、ナビを使ってからは道を憶えなくなった。そろばんを使わないことで計算が出来なくなった。このような感じだ。

また、検索や本や通販のレコメンド機能で、興味がありそうな内容だけが出てくる。本屋や街を歩くのは不便だが、思ってもみなかった「知」との出会いが生まれる。

整列された世界には秩序があるが、混沌の偶発的な発見や驚きはなくなる。デジタルで利便性が高くなることは重要だが、それにともない感情の抑揚は小さくなっていく。

どちらを選択するかは人それぞれ。
DXが正義か悪かを判断するのも人それぞれになる。

不便を楽しむのか、デジタルで新しい領域へチャレンジするのか。

5年後、10年後。100年後の建築塗装の業界が、どのように変化するのかが楽しみだ。

©︎PaintBiz By 二見勇治

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二見勇治

著者:二見勇治 Futami Yuji

建築塗装アナリスト
企画・取材・撮影・動画清作・ライティング・マーケティング 担当
東京都出身。建築塗装業の長男として生を受け、多くの職人達の中で育つ。塗装職人と造園職人の修行を積んだ後、カメラマンへ転身。出版社カメラマンを経て2001年よりフリーカメラマン。
雑誌・書籍・広告撮影、塗装関連の写真・動画制作、リフォーム会社広告担当を経験。
建築塗装の新たな表現を模索中。