ペイントビズ(PAINTBIZ)

塗装業界DX!!正義か?悪か?

DXで崩壊した産業

私事で恐縮だが、筆者の体験した事例を交え、DXによって衰退・崩壊した産業をご紹介する。

自分はペンキ屋の倅で、高校卒業と同時の1989年に丁稚から職人をはじめ、その後カメラマンと職人を半々、そして1999年には出版社のカメラマンへとジョブチェンジを行った。
ヨットとモーターボートの雑誌を出版している、舵社という出版社の社員カメラマンになった。

その後フリーカメラマンを15年行い、生まれ育った建築塗装の世界へ戻り、建築塗装の広告制作を経た後に現在のペイントビズへと至る。

感のよい読者ならお分かりだろうが、DXによって崩壊した産業とは写真業界だ。

筆者が90年に写真を始めた頃はまだフィルム全盛期。デジタル移行前のプロカメラマンの現場では、一日に何十本ものフィルムを使っていた。
スタジオ撮影では照明と写真の露出(明るさなど)を確認する目的で、インスタントフィルム(ポラ)によって写真を確認しその後ポジフィルムでバンバン撮影する。

2000年当時、ポジフィルムの現像代は一般だと35mm版で800円位。ラボ(プロ向けの写真現像所)では出版社価格の交渉すると、1本500~300円くらいまで下がった記憶がある。
フィルム代も同じ位(プロ向け価格)なので、1本買って1本現像すると1,000円~安くて600円。

1日に20本フィルムを撮影することも普通で、フィルムと現増代だけでも1万円~2万円ほど。
当時の一般価格だと、フィルム800円、現像代800円で、1本買って現像すると1,600円。20本だと32,000円だ。

出版社時代、コンスタントに1日10本は撮影していたから、1ヶ月だいたい20~30万円程度の「感材費」※1を使っていた。
この費用も当然会社からは「抑えろ」と言われて、セーブした経費でもこの額だ。

広告撮影やトップクラスのグラビアカメラマンはこの10倍くらいの感材費もザラで、稼ぎは100倍以上。
※1当時、フィルム現像代の事を「感材費」といっていた。今は使われない死語。

当時も今も同じく、プロカメラマンになるには写真が上手くなければなれない。

その方法は様々な条件や被写体であっても、世の中に公表できるクオリティーを保ち、大量に画を創ることが必須条件だ。
仕事の量と質でカメラマンはプロになれる。
それプラス、フィルム時代は大量に撮影すればするほど、多額の費用が必要になり、フィルム代や現像代を誰かに出させる環境に身を投じる必要があった。
それが出版社なり、写真撮影事務所だ。

また、写真をジャッジ(評価)をしてくれる学校や、職場での編集者や、写真部(部署)のデスク(管理職)の存在が無ければ、なかなか成長は出来ない。

こういった世界への入る覚悟と、その選択を出来る人でなければ、当時の出版業界で通用するプロカメラマンにはなれなかった。

「フィルム代の問題」、「写真を評価してくれる人の存在」、「仕事に人生をかけられる資質」そして、写真の基礎知識。こういたことがブラックボックス化していたからこそプロカメラマンが成り立っていた。
この特種な環境があってこそ、筆者のような下層のカメラマンですらプロカメラマンになれたが、デジタルカメラの出現でフィルム代の問題が消え、誰でも大量に写真が撮れるようになれば、写真が上手い人は大量に出現する。

そしてフィルムが無くなったことで、コダックが破綻し、富士フイルムは業態を変えた。

フィルムが無くなれば、写真を現像する会社も運営が出来なくなり、その存在も消える。
当然街中にあったDPE屋さん、写真屋さんも消え、殆どの人が写真をプリントしなくなり、アルバムという存在も消えた。

誰でもデジカメで写真が撮れるようになると、それまでプロカメラマンが必要だったジャンルも自分たちで撮影するようになり、プロカメラマンの需要も少なくなる。
(今は更にそこから進み、カメラマンの供給が足りない逆転現象が起こっている。)

そしてデジタルカメラは無くなりスマートホンに替わる。それと同時に写真は人々が共有できるモノ、価値へと変わった。

デジタルカメラの出現という影響は、20年で「風が吹けば桶屋が儲かる」を地で行くパラダイムシフトが起こり、今やキヤノンやニコンも風前の灯だ。
そう、写真業界はフィルムという「インフラ」がデジタルに置き換わったことでDXが興り、その産業が衰退、崩壊した。

デジタルツールによる破壊的イノベーションは、価値観すらも変えてしまうパワーがあり、その裏には稼ぎ口がなくなった人々が大勢いたのだ。

だからこそ、DXは必ずしも正義であるとは思えない。
しかし、ある人が断念したり止めても、別の誰かが必ずはじめ、一度動き出した流れは止められない。

では、塗装業界のデジタルツールでは、どのような変化が起こるのだろうか?

また、何に注意を払うべきか。

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二見勇治

著者:二見勇治 Futami Yuji

建築塗装アナリスト
企画・取材・撮影・動画清作・ライティング・マーケティング 担当
東京都出身。建築塗装業の長男として生を受け、多くの職人達の中で育つ。塗装職人と造園職人の修行を積んだ後、カメラマンへ転身。出版社カメラマンを経て2001年よりフリーカメラマン。
雑誌・書籍・広告撮影、塗装関連の写真・動画制作、リフォーム会社広告担当を経験。
建築塗装の新たな表現を模索中。