ペイントビズ(PAINTBIZ)

塗料用標準色の色見本帳に激震が走る!

2021.10.21

塗料用標準色2022年M版およびオートペイントカラーズの発行遅延を考察

2021年10月15日、(一社)日本塗料工業会より、2022年発行予定の塗料用標準色およびオートペイントカラーズの色見本帳発行遅延が公表された。

この問題をペイントビズでは、建築塗装業界の非常事態として取り上げたい。

先ずは、(一社)日本塗料工業会から公表された原文を掲載する。

引用:(一社)日本塗料工業会

以下、原文書き起こし


塗料用標準色M版(ポケット版、ワイド版)※及び2022オートペイントカラーズの発行中止について

2021年10月14日(一社)日本塗料工業会

2022年11月に発行を予定していました塗料用標準色M版及び2022年2月に発行を予定していました2022オートペイントカラーズは、これまで継続して製造を委託してきました会社から、当該会社の事情により塗料用標準色M版及び2022オートペイントカラーズの製作を辞退する申し入れがありました。

このため、時間をかけて製造を継続していただくよう話し合いを行って参り ましたが、製作を委託している会社の辞退の意思が強いことから、(一社)日本塗料工業会としましては、誠に残念でありますが、塗料用標準色M版及び2022 オートペイントカラーズの発行を中止することを決断いたしました。

これから、塗料用標準色及びオートペイントカラーズの生産を委託する会社を新たに選定し、発行を継続して参りますので、それまでの間、塗料用標準色M版及び2022オートペイントカラーズの発行が遅延しますことをご理解いただき ますようお願い申し上げます。

塗料用標準色及びオートペイントカラーズをお買い求めいただいておりますお客様並びにご利用いただいておりますご利用者様には、ご迷惑をおかけすることとなり、お詫び申し上げます。

※ 塗料用標準色は、1954年に第1版を発行して以来、時代のニーズを汲み取 りながら改良を続け、2020年度に発行した2021年L版「塗料用標準色」で35版となりました。


※引用:(一社)日本塗料工業会

このような発表に関係者一同、間違いなく相当なインパクトを受けた。

国内の塗料・塗装に関わる、塗料メーカー・塗料販売店・塗装工事会社・工業製品の塗装会社・自動車修理工場では、何事が起こっているのかの想像すら出来ない。

さて、単なる遅延であれば、他業界の例で上げると、ゲーム会社の新作ゲーム発売が遅れるなど、製品の発売延期は良くあることだ。
しかし、国内工業の標準色が製作会社の理由で遅れても良いものだろうか?

しかもこの色見本帳の商取引きには、複雑な問題がある。

2021年発行のL版の時、ペイントビズ内でPBフタミ(筆者)とPBササキ(塗料販売店経営)との間でこんな会話があった。


PBササキ:
フタミさん、色見本帳の仕入の支払いって、いつするか知ってます?

PBフタミ:
ん?分からないっス。いつっスか?

PBササキ:
・・・
・・・2年前ですよ。

PBフタミ:
2年?ふ~ん…

んっ?2年前ってナニ?
何それ?そんな商習慣、聞いたこと無い。ウソでしょ?
初めて聞いた、2年前支払い?マジっ?

PBササキ:
コレね。
昔からなんですよ。ずっとそう。
2年前に先払いなんですヨ。


色見本の発行部数は?総売上は如何に

2年前云々の話しは、塗料販売店の方々ならば昔からの商習慣でご存知だろう。

つまり、塗料販売店は既に色見本帳の支払いを済ませている。
それなのに、「下請がケツを割ったから遅れます!」ということは、単純な遅延とはならず、下手すると遅延損害金が請求されてもおかしくない。

もしも塗装会社が下請に先払いして、その下請が「予算が合わないから、納期内に完工できない」と言い出したら、激昂するはずだ。
それくらい事態は深刻ではないだろうか。

更には国内工業製品や建築外装の色の指標となる標準色発行とならば、お上からの行政指導が入ってもおかしくない。

では、この色見本帳はどれくらいの発行部数なのか?どれくらいの金額が動いているのだろうか。日塗工の色見本帳は発行部数を公表していない。
しかしある「ヒント」があり、簡単な方法で発行部数が算出できてしまった。

画像引用:(一社)日本塗料工業会 2021年L版ちらし

上記チラシには、日塗工塗料用標準色のL判を積み上げた高さが記載されている。
その高さから、色見本帳のサイズを割れば発行部数がザッとではあるが算出可能。
ポケット版、ワイド版の両方共に高さが50mmだから計算は楽勝だ。

19,500m ÷ 50mm(0.05m) = 390,000部

ただし、ポケット版とワイド版の両方を合算した発行部数となる。

国内の建築塗装関係者が約10万人だから、その4倍近くの発行部数だ。
塗装以外のリフォーム関係者や建築設計者も購入しているだろうから、リアルな数字として実に生々しい。

ある意味、建築塗装にフォーカスしている人の実数が分かり今後の様々な指標ともなる。

続いてこの数字から、色見本帳関連の金額を算出したい。

ポケット版:希望小売価格2,700円(税別)
ワイド版 :希望小売価格19,900円(税別)

39万部をポケット版のみで販売した場合、計算すると10億5千300万円。
ワイド版だけで計算すると、77億6千100万円。
但し、圧倒的にポケット版の方が販売割合が多い。

ポケット版とワイド版の正確な発行部数割合が分からないため、何ともいえないものの、全体で少なくとも10億円以上が動く換算だ。

しかし、製作会社→日塗工→塗料メーカー→塗料販売店→塗装会社の順に販売され、ポケット版の希望小売価格が2700円(税別)へと至る。
仮に全ての販売がポケット版だとした場合、各社が6掛けで売ったとすると、製作会社には少なくとも1億3千万円程の支払いとなる。
更に塗料販売店は発売予定の2年前に支払いを済ませている事から、6掛けで計算しても、M版の色見本帳には既に6億円以上が入金済みという計算だ。

製作会社に内金などが支払われていたかは定かではないが、様々な人員が実働し既に損害が発生しているのは間違いない。

実はペイントビズとして、日塗工・製作会社の双方へ電話取材を行ったものの、日塗工は「発表以外は答えられません」。製作会社は「担当者不在」と、両社とも模範回答だった。
(製作会社側は、本当に担当者不在だったのかもしれない。)

あらためて言うが、今回の色見本の問題は、非常に重大な出来事だ。
日塗工のサイトを見れば分かるが、日塗工にとって色見本帳の発行は、最重要の事業となる。
トップページにある、「日塗工とは」の次の項目として、メニューへ掲示されているのがその証拠だ。

画像:(一社)日本塗料工業会トップページ

2年前先払いを推察

今回ペイントビズが色見本帳の発行部数を割り出してしまったから、次回のチラシには間違いなく算出根拠につながる数字は掲載されないだろう。

しかしこの色見本ビジネスは、既に先払いしているのだから、不良在庫などは起こらず相当効率の良い素晴らしいビジネスだ。
そして昔から行われていたとなると、既得権益を最大限に活用したビジネスモデルで、近年開発された限定商品販売のクラウドファンディングさえも霞んで見えるほど。

但し、一般企業で2年前支払いだとすると、相当奇妙な支払いサイトだが、色見本帳の企画が社団法人や財団法人が主体となると、2年前支払いも分からなくもない。

筆者は以前、スポーツ系の財団法人のオフィシャルカメラマンを行っていたことがある。イベントの記録写真撮影がメインだった。
その財団法人とは年次毎に外注としての契約があり、その契約の根拠は財団法人の場合、年間で予算が決まりその予算を公告しなくてはいけないからだ。

ここからは推察だが、一般社団法人の場合も似たような感じで年次で予算立てを行うのだろう。
その結果として、色見本帳の製作期間が1年以上を跨ぐために、仕方が無く「2年前先払い」という支払いサイトが出来上がったのかもしれない。

しかし、平常時の社会情勢ならば、2年前支払いも仕方の無い事かもしれないが、物価変動の激しいコロナ情勢下でありながら2年前に入金させた事により、紙は値上り、塗料も値上りもすれば、製作側が逃げ出すのも無理はない。

さてこの問題を、日塗工ではどのようにして切り抜けるのか。

”希望小売価格の改定”という、最終カードを打たないことを願うばかりだ。
もしもそんな事になれば、悲しみはマリアナ海溝よりも深く、悲鳴はエベレストよりも高く響くことになるだろう。

©︎PaintBiz By 二見勇治

二見勇治

著者:二見勇治 Futami Yuji

企画・取材・撮影・動画清作・ライティング・マーケティング 担当
東京都出身。建築塗装業の長男として生を受け、多くの職人達の中で育つ。塗装職人と造園職人の修行を積んだ後、カメラマンへ転身。出版社カメラマンを経て2001年よりフリーカメラマン。
雑誌・書籍・広告撮影、塗装関連の写真・動画制作、リフォーム会社広告担当を経験。
建築塗装の新たな表現を模索中。