塗装で町を人を変えた
ペンキ屋ならば知っている。子供達はペンキ塗り、塗装が大好きだ。
仕事で道に面した塀を塗っていると、熱い視線がわかる。
気づかれないようにそっと覗くと、大抵小学生が凝視している。
ゆっくり振り向くと、どの子もいつも同じ台詞。
甲高い声で、「何してるの?」
一瞬だけ間を空けて、
「やってみる?」とローラーとバケットを前に出すと、満面の笑みがそこに生まれる。
それくらい子供達は塗装が大好きだ。
コロナ世情の中で東京オリンピックは開催したのに、子供達の行事はことごとく無くなり、遠足、運動会、学芸会、学習発表会、地域の夏祭りなど、子供達が心待ちにしていた行事は消し飛んだ。
もしも自分達が同じ立場で、子供時代に行事やイベントが無くなったら、どれだけ落胆したことか。
遠足の前の日に眠れなかったこと。運動会の応援で声が枯れたこと。卒業式で涙したこと。この全てが無くなったと考えると、胸が押し潰される。
構想2年弱。工期約半年という長いプロジェクトの末、町に彩が浮かび上がった。
企画の名称は「志村ペイントプロジェクト」。
この壁画は板橋区「志村」から上がる坂の途中に描かれた。
坂の上が「志村の坂の上」で「志村坂上」という中山道の要所。
このエリアは江戸時代、中山道と隣接する運河からの荷揚げによって町がにぎわい、昭和初期は工場地域として凸版印刷、エンジンのトーハツ、光学メーカーのトプコンなどが拠点を構え町が発展。
時代は移り、現在はファミリー層の住宅地として変貌した街が「志村坂上」だ。
そしてこの地に拠点を構える三興塗料株式会社さんが、今回のプロジェクトを支えた。
代表取締役の清水雄一郎氏(以後:三興塗料清水 敬称略)より、お話しをうかがった。
三興塗料清水
この企画自体は2019年秋にスタートしました。
地元・志村城山の有志が「わが街を明るく、元気にしたい」との思いから、「志村ペイント・プロジェクト」として動き出したものの、途中でコロナが始まってしまい、構想から終了まで1年半ちかくかかりました。
でも、この企画は子供達が主役。私達はあくまでもサポートとしてのご協力です。
近くの板橋区立志村小学校の生徒たちが四季・夢・宇宙をテーマに描いた原画をもとに、生徒や親御さんたちと一緒に擁壁を塗り替え、街が華やかに変貌しました。
ペイントビズ二見(以後:PBフタミ)
塗装ということですから、準備などの裏方的なことは、殆ど三興塗料さんが行った感じでしょうか?
三興塗料清水
微力ですがご協力させていただきました。
PBフタミ
メーカーの協賛もあるとお聞きしていますが、塗料店さんですからそういったお声掛けも行ったのでしょうか?
三興塗料清水
お陰さまで様々な塗料・副資材メーカーさんにご協賛いただきました。
塗料は日本ペイントさん、関西ペイントさん、副資材は大塚刷毛さん、好川産業さんにご協力いただきました。
PBフタミ
塗料の提供が2社に渡るのは何か理由があったのでしょうか?
あとペイントビズは一応、塗装工事関連メディアなもので、宜しければ材料の種類もお教えください。
三興塗料清水
協賛の塗料メーカーさんは、下塗りと、上塗りとで分けさせていただきました。
下塗りは「日本ペイント 水性カチオンシーラ ホワイト」
上塗りは「関西ペイント アレスダイナミックTOP 3部艶。(各色)」です。
最初の条件として、子供達に優しい水性塗料と選びました。
既存壁面が打ち放しの擁壁のため、耐アルカリ性の高い下塗り塗料を選び、上塗り塗料は作業日が土日しかできないので、多少の雨でも施工でき、しかも壁画が長期間発色できるよう耐候性に優れた塗料を採用しました。
PBフタミ
なるほど、でも耐候テストとしても利用できますね。
壁画ですから、色別の耐久性能が丸分かりじゃないですか?
三興塗料清水
そうなんですよ。毎日通る場所なので、社員全員が耐候性を感じることが出来ちゃいます(笑)
PBフタミ
施工というか、壁画を描く作業の段取りとして、どのように行ったのでしょうか?
三興塗料清水
既存壁面は極ありふれた、表面が劣化したコンクリート打ち放しです。
著者:二見勇治 Futami Yuji
建築塗装アナリスト
企画・取材・撮影・動画清作・ライティング・マーケティング 担当
東京都出身。建築塗装業の長男として生を受け、多くの職人達の中で育つ。塗装職人と造園職人の修行を積んだ後、カメラマンへ転身。出版社カメラマンを経て2001年よりフリーカメラマン。
雑誌・書籍・広告撮影、塗装関連の写真・動画制作、リフォーム会社広告担当を経験。
建築塗装の新たな表現を模索中。